忌中と喪中

忌中とは、死による穢れを他人に移さないよう外部との接触を避けて身を慎む期間のことを指します。この考え方は元々は神道のもので、神道と仏教の概念がまとまり神仏習合の一つの名残として今に受け継がれています。かつては、忌中の間は喪服を着用して家の門戸を閉めて完全に外部との接触を絶ち、お酒を飲んだり肉や魚を食べたりすることもせず「精進料理」を食べて過ごす期間でした。
しかし現代において完全に外部との接触を断って暮らすことは現実的に難しいですから、普段通りに職場や学校へ行き食生活も火葬が終わった後に行う宴席(精進落とし)を期に普段通りとすることが一般的です。忌中の期間は、一般的には故人が亡くなった日から四十九日を過ぎるまでの期間となります。忌中の期間は、喪中と同様に服忌令における「穢れを忌む」期間の定めを参考にしています。故人との関係での忌中の期間は以下の通りとなります。

五十日間:配偶者・父母・子供
三十日間:祖父母・孫・兄弟姉妹・配偶者の父母
十日間:曽祖父母・曽孫・おじおば・甥姪・子供の配偶者

なお、神道では同居している方が亡くなった場合には血縁の濃さに関係なく忌中の期間は五十日となります。
忌中の際に気を付ける点として、自宅に仏壇がある場合には仏壇の扉を閉じておく必要があります。また、自宅に神棚がある場合には、忌中の間は「神棚封じ」をする必要があります。これは、神様を死の穢れから遠ざけるために神棚にお札や半紙を貼ることで、忌明けするまでは神棚にお参りをしないようにする為です。
また、忌中の際には、結婚式の主催や参列・家の新築や改築などの慶事は避けましょう。時期をずらしても七五三祈願をしてくれる神社は多くありますから、お子様の七五三も忌中に行うことは避けましょう。時期に関して周囲に気にする方がいる場合には、着物や衣装のサイズに難がないのであれば一年遅らせて喪中が明けてからという選択肢もあります。忌中の間は神社への参拝もしてはいけませんがお寺へのお参りはしてもよいとされています。また、喪中の場合にはお歳暮やお中元を送ってもよいお伝えしましたが忌中の場合は控えましょう。
忌明け後にすべきこととして、葬儀やお通夜の際にいただいた香典に対し香典返しを行うことが挙げられます。会葬礼状とともに当日に香典返しをする場合も増えてきていますからその場合には忌明け後に香典返しをする必要はありません。ただし、四十九日の法事の際にいただいたお供えや香典に対しては忌明け返しと呼ぶお返しをする必要がありますので注意が必要です。また忌明け後には、故人が亡くなった際に行った神棚封じを解きお参りを行いましょう。同じく、閉じてあった仏壇の扉も開けます。


喪中とは「亡くなった故人を追悼するために遺族や関係者が自らの行動を慎むと同時に近い人を亡くした悲しみから立ち直るための期間」のことを指します。これは儒教の考え方に基づく風習で、古くは奈良時代の養老律令にも規定されていました。喪中の期間は、徳川綱吉の時代に制定された服忌令という、家族や近親者が亡くなった際に喪に服す期間について定めた法律を基に決められています。服忌令は「喪に服す」期間と「穢れを忌む」期間に分かれていました。この服忌令自体は昭和二十二年に廃止されていますから現在は喪中について法律で定められているわけではありませんが、現在一般的となっている喪中の期間は服忌令の「喪に服す」期間の定めを参考にしています。
喪中の期間は、故人が亡くなった日から一年間が喪に服す目安とされていますが、故人との続柄や住んでいる地域・風習によって変わります。代表的な続柄からお伝えすると、故人の配偶者や父母の場合は十二~十三ヶ月・故人の子供の場合は三~十二ヶ月、故人の祖父母や兄弟姉妹の場合は三~六ヶ月となります。喪に服す間柄は基本的には、故人から見て二親等までの親族とされています。ですが、血縁で見れば三親等以上離れている場合でも故人との関係性が深い場合などは喪中となる場合もありますので、一概に二親等までとは言えません。なお、親等で表すのは血族と姻族ですから、配偶者に関しては親等で表すことはないため注意が必要となります。三親等までにあたる親族は以下の通りです。

一親等:故人の両親・子供・配偶者の父母
二親等:故人と配偶者の祖父母・兄弟姉妹とその配偶者・孫とその配偶者
三親等:故人と配偶者の曽祖父母・曽孫・叔父叔母(伯父伯母)・甥や姪

喪中に控えるべき事柄としては、結婚式への参列といった慶事や派手な娯楽への参加は控えるべきとされています。また、年始のお祝いは控え喪中のために新年の挨拶を控える旨を喪中はがき等を出して知らせます。また、正月飾りなども行わず、結婚報告のはがき等は送るべきではないとされています。
反対に喪中でもしても良い事柄としては、他の葬儀への参加・節分行事への参加とされています。お歳暮やお中元の送付についても、自分が喪中または送付先が喪中であってもお歳暮(お中元)は年の暮れに一年間(半年間)お世話になった方々への感謝の気持ちを贈り物にして表す慣習ですから問題ないとされています。ただし、お歳暮もお中元も故人宛に送らないことは勿論ですが、水引のない無地のかけ紙または短冊を選ぶことや添える手紙の文章に「お祝いの言葉」を使わないという点に注意しましょう。

お葬式の豆知識
宗教ごとの忌中の扱い

ここからは日本における一般的な宗教として神道・仏教・キリスト教における忌中の扱いの違いをお伝えします。
まず仏教における忌中と喪中についてですが、仏教では「死」は「死によって生の苦しみから解放され生まれ変わるための通過点」とされています。忌中は四十九日目の法要までの期間のことを指し、亡くなった方は七日ごとに審判を受け、四十九日目に行くべき場所が決まるとされているため四十九日を一つの区切りとしているのです。遺族らは故人が無事に生まれ変わることを願い追善供養として、本来七日ごとに四十九日目まで法要を行います。(現在は初七日法要と四十九日法要だけを行うことが増えています)ただし、仏教の中でも浄土真宗は例外です。浄土真宗の死生観は、生前の行為に関係なく亡くなった方は誰もがすぐさま阿弥陀如来のお力により極楽浄土にて仏様として生まれ変わるというもので、浄土真宗の教えや死生観に基づくと故人の冥福を祈るという意味の喪中や忌中といった考え方はありません。

続いて神道における忌中と喪中ですが、神道では死を「穢れ」と捉え忌中の間は穢れが残っているとされています。よく混同されがちなのですが、「穢れ」は「汚れ」と同じ読みですが同じ意味の言葉ではありません。穢れは「気枯れ」とも呼ばれていて、大切な方が亡くなり気力を失っている状態等を指すとも言われています。このような状態で、神様のおわす神社にお参りすることは失礼であると考えられていて、穢れが神域や周りの方にも及ぶ可能性もあるということで身を慎むべきだと考えられているのです。神道において、忌中は五十日間です。これには人は亡くなってから五十日間は霊として存在し、五十日祭をすることで家庭を守る守護神になるという考え方が基になっています。元々は五十日祭の翌日に行われていた、「清祓いの儀」(清祓いの儀とは忌明けを象徴する儀式で故人が亡くなった段階で神棚に貼った白紙を剥がす儀礼)を行う前までを忌中としていましたが、現在は清祓いの儀を五十日祭の当日に一緒に行うのが一般的となっています。

最後にキリスト教における忌中と喪中についてですが、喪中と忌中の考え方は日本のもので、キリスト教には喪中・忌中という概念が存在しません。キリスト教では、「教えを信じている者の死後は神様によって天国へと導かれ、遺された人たちも同じように死後天国へ行くため後々再会できる」という考え方であるためです。したがって、死はひと時の別れであり、また再会できるために死を悼む期間も必要ないとされているのです。ただ、キリスト教の中でもプロテスタントの場合は、「一か月後の召天記念日」カトリックの場合には、「追悼ミサ」をひとつの区切りとするという考え方もあります。